周くんと忍とボールペンをめぐるお話。
あまぶんイベント内企画、
444書、お題:文房具に参加させていただいたものです。
たからもの「桐島くん、いいペン持ってるね」
「……ありがとうございます」
ぎこちなく頭を下げながら、興味深げに注がれる視線をちらりと盗み見る。
「パーカーの5thだよね。それの白が欲しかったんだけど行きつけの店で早々売り切れちゃってさ。でもいいなぁ、やっぱ。桐島くんなら断然ブラックだよね」
「詳しいんですね」
「連れの影響でちょっとね」
桐島くんは? 促すような問いを前に、ぎこちなく笑いながら答える。
「貰い物なんで」
就職の祝いにと恋人がくれたご立派なボールペンは初出社のその日からずうっと、お守りのように胸ポケットに欠かさず差しているささやかな宝物だ。
「へえ、」
「使いますか?」
ぎこちなく差し出してみれば、大げさに手を振ったポーズが返される。
「いいよいいよ、浮気になっちゃうし」
「なりませんって」
「いいなあやっぱ。俺も買おっかなぁ」
曖昧に笑いながら、すこし傷の浮かんだ軸をそうっとさする。
言葉にはきっと出来ないのだけれど。まるで、指輪の代わりのように大切に思っているだなんてことは。
おくりもの なるほど、これは未知の世界だ。煌めくショーケースにずらりと、まるで宝石のようにうやうやしく並べられたペンを前に思わずぼうっとためいきを洩らす。
三・四万なら寧ろ安いほう、とはその道に詳しい友人に聞かせてもらってはいたけれど、こうして目の当たりにするとやはり圧倒されてしまう。
さりげなく存在感を示せて、それでいて嫌みになりすぎないもの──あまり高価すぎるのも却って迷惑だろうし。
指紋がつかないようにとガラスケースから指を浮かせてしげしげと眺めていれば、いかにも仕立てのよいスーツ姿の店員はそっと声をかけてくれる。
「お客様、何かお探しものでしょうか」
どこか誇らしい気持ちになりながら、胸をはるようにして答える。
「プレゼントを探しに来たんです、恋人の」
「それはまた、ありがとうございます」
丁寧なお辞儀を前に、おだやかな笑顔でそっと応える。
肌身離さず身に付けてもらえるものなら、側に居る気持ちを味わえる気がして。
口には出さない言葉をそっと飲み込めば、胸の奥にはあたたかな花がそっと咲きこぼれる。
忍が周くんに送ったのはパーカー5thのインジェニュイティのスリムブラックです。
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