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調弦、午前三時

小説と各種お知らせなど。スパム対策のためコメント欄は閉じております。なにかありましたら拍手から。

テキレボEX パッキングのおぼえがき

今回のテキレボEXの際の荷物の振り分けパッキング、もっとわかりやすくスマートな方法があるだろうなとは思いながらも自分なりの手順を振り返ってみました。


【用意したもの】
・サイズごとのクリアパック(はがきサイズ/A5/B5)
・封筒(B6/A5/B5)
・ボール紙
・シール用紙
・プリントアウトした受注表
・サンクスカード(市販のかわいいやつに直筆でおてがみを書きました)
・適当な大きさの発送用段ボール箱

買い置きで足りない場合は事前にホームセンターや百均で買っておくとよいですね。




エクセルなどに張り付けてソートできるようにするのがいちばんですが、それすら面倒くさくてメモ帳にふつうに打ち出しました。
正直件数がそれほどないので目視確認出来るレベルだからなわけで、件数が多い&種類が多い場合は手間がかかってもエクセルで一行ずつ表にしたほうがいいと思います。
1シートに4枚仕分け表をプリントアウトするので、まずは4つずつサインペンで仕切ります。

受注内容を確認しながらPDFに受注番号、サークル名、値段などの必要事項を打ち出してシール用紙にプリントアウト。
事前に注文内容を確認して本は在庫箱から注文が来た数だけ出しておきます。
(ペーパー類も在庫数が足りるか確認、足りなかったコピー本は作り足しました)




世界の作業台からこんにちは!(かわいい~!)


わたしは後から届く名刺を一緒に入れるつもりだったため、注文のあった本をリストを見ながらまとめてクリアパックに封入→ペーパーなどのペラものにはサイズに合わせて切ったボール紙を補強に入れる→プリントした表と付け合わせながら封入したアイテムがあってるのかを確認→カットした受注表シールをクリアパックに一緒に入れる→もう一度内容と表を付け合わせて確認しながら封筒にクリアパックを入れ、封筒に受注表のシールを貼る。
出来たら箱に一旦入れておく。



 

こうなったら仕分け出来上がり


あとは名刺が届いたら全部のクリアパックに追加でいれて、クリアパックにマステで封、蓋のところに両面テープを貼ってある封筒に封をしてビニールテープでさらにふたをしたら出来上がりです。



わくドキに250部のおまけを用意するのはちょっとむりだったので購入者用のおまけを、と考えて、名刺と短歌のカードを頼みました。
発送期間内には届くみたいだけどもうちょい早めに頼んでおけばよかったね。




わたしはもったいない精神でせっせともらってきた段ボールを切ってましたが、大きめな百均で売っている(ことがある)こちらがあると便利です。

・作業台は広いといい(わたしはダイニングテーブルに目いっぱい広げてやりました)
・二重三重のチェックを忘れない
・本はあらかじめ送る分だけ手元に用意

がポイントかな。
わたしくらいでもたいがい大変だったことを思うと注文数が多い人はもっとすごく大変ですよね。
まだ届く前の本があったり欠品があったりする場合はメモ書きなどまた違った手間が必要かと思います。

しょうじきすごく大変だけど、これを運営さん側でやってくださっていた末に荷物をまとめてくださるのかと思うと……頭が上がらない。
とはいえ、注文番号ごとにどの組み合わせで頼んでくださったのかがわかったり、個別におまけをつけられるのはうれしいし楽しいですね。
特定の本を買って下さった方に番外編をお付けする、なんてことも可能なわけでして。


本が届けてもらえるのが楽しみです。
運営スタッフさま、参加サークルのみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。




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TEXT REVOLUTIONS EXTRAに参加させていただきました!

テキレボEXが終了いたしました。
みんなで集まれない、せっかく作った新刊を頒布するイベントがなくなってしまった、という厳しい状況の中で「二週間じっくりみんなでお祭り気分で楽しめる」イベントを企画してくださり、本当にありがとうございました。
前回にもすこし書いた通り、みんなで盛り上がれる場がWEB上に作っていただけたことで、何もできず、イヤリングくらいしか作れなくなっていた(笑)自分を大きく奮い立たせてくれ、ついに5年ぶりの長編小説を書き終えることが出来ました。

みんなで楽しめるってうれしいな。楽しいな。



【売り手側のあれやこれや】



ひとまずちょっきんの広島のお品書きを流用して手元に在庫のあるものを……と思っていたら、デッフラを出し忘れていて(えー!)

通常の委託は点数ごとに料金が異なる/まず会場に任意の数を送らねばならぬ(ので数字を見誤るとかなしいことになってしまう)/頒布ゼロが普通にある
ものですが、点数制限なし、受注が来た分だけ送付すれば良いのは経済的にも精神的にも大変ありがたいですね。
ぶっちゃけた話、資金面および精神的な面での負担がすごく少なく済むので参加してみた、というのはありました。
買う人がいるかわからないけれど……とだめもとのつもりで出してみたイヤリングが売れて素直に嬉しかったです。

受注番号何番の人が何をどの組み合わせで注文しました、とメールが来るので結局何冊ずつ売れたのか付け合わせるのがややこしかったのですが、その組み合わせでパック詰めすればよいので個別にお手紙や無配などがつけられるのはよいですね。
書き下ろしは難しくても、内容に沿って何かおまけをつけたいなぁ、などと考えていたりもします。


【宣伝・告知のこと】

とにかく趣向を凝らしてわかりやすく何度も繰り返し宣伝を! というのがテキレボの特徴なので郷に入っては郷に従え、だとは思うのですが正直いまの自分の精神的・肉体的キャパシティも含めてあんまり乗り切れなかったですね。
というわけで、あまり宣伝をたくさんは打てなかったのですが、そんな中でも見つけてくださった皆さん、リツイートなどをして広めてくださった皆さん、おすすめにあげてくださった皆さんがいらしたことにすごく励まされました。ありがとうございます。

値札やディスプレイなどの売り方の面に関して
「初見がパッとみでわかるフォーマットで訴求ポイントをわかりやすく打ち出してくれ、そうでないと見落としてしまうのでわからない」

「個々人のやりたい・やれることがあるのに『このくらいは必ずするべきだ(出来ないのは失格)』という風潮は横暴だ」
というのがこのところ繰り返し議論されてることなのかな?

同人作品というのは作り手と温度感や波長も含めた趣味が合う人の手に渡ってもらえたら双方幸せになれるものだと思うので、結局のところは、個々人のやりたい手段で『作品を送りだすうえで大事にしていること』をアピールしていけばそれでよいのではないかと思います。
書き手ならそりゃあひとりでも多く自分の作品を必要としてくれる人に出会いたいので、【売り方】は大事だよ、というのはわかるし、良いなと思ったところは大いに参考にすればいいと思うのですが。
ピンとこなければ「なんかゆうとるけどわたしには関係ねえな」でよくないかしら。
(そんな風に済ませられるかーいってなっちゃう気持ちもわかりますが)

具体的な話をすこしさせてもらうと、いくらその方がわかりやすいからそうしろ、と言われたとしてもわたしはほどけない体温をトラウマ持ちのぶっきらぼうツンデレ男前とポジティブ陽キャのほっこりR18大学生BLでリバありです、とは宣伝したくないのと同じだと思います。
(読んでくださった方ならお分かりかと思いますが、この宣伝は的確にあっています。笑)
(感想や広めてくださる際にそのように言及してくださることはまったく問題ないし、うれしいです。周くんはツンデレかわいいし忍は斜め上にポジティブでいい子で作者も読むとほっこりします)
個人的な好みの話になりますが、わたしはBL界隈の▲▲な攻めと□□な受け、という訴求方法に(好みの要素に敵ったお話を探すための的確な宣伝文句とわかっていても)あまり馴染めなかったりするので……。

小説を書いて本を作るのは楽しくても、みんながみんな「売り込む」ことが得意でじょうずなわけではないのでそこはずうっと論じ続けられていく課題になっちゃうんでしょうね。



【おすすめの本の話】

テキレボに参加する際の醍醐味が「いままでに読んだオススメ本、楽しみな本をアピールすること」だと思います。
取り上げてもらえるとなんというかここにいてもいいんだ感を感じるというか……!(涙)
リコメンドは書き手さんに喜んでもらえることはもちろん、一歩深く踏み込んだイベント参加となりますし、「何を好きでどんなふうに読んでいるのか」を発信することは結果的に個々人のアピールにもつながる表現活動のひとつだと思っています。

今回並んだ本の中にも楽しく読ませてもらった本、おすすめしたい本が多数あったのですが、気力残高が足りないために積極的な参加はできず……

ご紹介くださった

凪野基さん
かまこやもり(雲形ひじき)さん
服部匠さん
神奈崎アスカさん
新島みのるさん
佐倉治加さん

みなさんほんとうにありがとうございました、うれしかったりびっくりしたりしながらたくさん励まされました。
表現や、そこから発せられたメッセージをどのように受け止めているのかというのは作品を送り出すことと同じくらいにセンシティブな問題だと思っています。
そこにかけてくださった労力もお気持ちも、本当に尊いものだなぁと心から感謝しております。

創作同人の界隈で匿名のメッセージツールが多用されるのも、ひとえに『他者のセンシティブな領域に踏み込むことは双方を傷つけることにつながる』からなのかな、と思います。
(ここではポジティブなメッセージに絞っての話をしています)
身元を隠したままなら、『わたし』がそれを発信したという重みを背負わなくて済みますからね。
政治や社会問題に対して鋭い言語化とご自身の意見表明をされている方に匿名のお便りや人生相談が多数届くのも、『自分を守るためにセンシティブな発言は身元を明かさない状態でないと話せないが、関心のある話題についてお話をしたい』からなのかな、というのを個人的に思ったりもしました。
……なんだか話がずれてきちゃった。

ツールがあったからこそ届けられた気持ちが支えになることもたくさんあるし、人さまのアカウントで繰り広げられるやり取りに深く感じ入ることもたくさんあるのですが、個人的にはそこに逃げ込むことはあまりしたくないな、頑張りたいなと思う今日この頃です。
らいさんはご自分なりにがんばってください。



【通販システムの話】

初回なこともあり、双方手探り感は否めませんでしたね。
当然ながら通販サイトは利用できる直前にならないと開かない
カタログでチェックしていた本がどう探せば出てくるのか付け合わせがたいへん!
は大きかったのかなあ。
カタログ⇄通販の行き来は個々人で手作業でリンクを貼っていくしかなかったのでなかなか骨が折れました。


墨付きカッコでジャンル名をつけるとカテゴリーに振り分けられる、というのがちょっとわかりづらい&抵抗感がある、というのもちょっとした問題だった気がしますね。
システム上仕方ないこととは言え、作品の一部であるタイトルにごちゃごちゃまとめサイトのようなジャンルコードが付与されるのは無粋に見えて。
そもそも作品ごとのジャンルの振り分けってデリケートな問題だからなぁ……。



ジェミニとほどけないにBLに加えて「恋愛」を入れたのは自分なりのこだわりというか、意地というか……笑
BLが苦手、抵抗があって男女の恋愛のお話を探している人にノイズになっていたら申し訳ないとも思うのですが、個人的にはBLを読んだことがない人にも読んでもらえればすごくうれしいな、と思いながら大切に書いているお話です。
長年頒布していますが、その想いが受け止めてもらえた、と教えていただける機会にもたくさん恵まれ、うれしいばかりです。


個人的にはジャンル別に本を探せるのは本屋さんのジャンルの棚を見ているようですごく便利で楽しく感じられました。
カタログから一冊ずつくまなくチェックして、はなかなかできないですからね!
興味のある評論やエッセイ本がすごく探しやすい!(のでそれ系統の本ばかり買いました)
グッズコーナーも多種多様なものが揃っていてみているだけでもワクワクしました。

テキレボはわかりやすくTwitterでアピールしてなんぼ、なイベントですが、個々人のポリシーなのか、単純にイベントの仕組みに慣れていらっしゃらないのか、ほぼ宣伝されていない方がちらほらいらっしゃるんだなぁというのが通販サイトを見て感じたことでした。
ぐるぐる周回するうちに思いがけない面白そうな本にたくさん出会えたのが楽しかったです。



【気になる結果のおはなし】

今回の実質新刊は無配の2アイテム。
フライヤーは配る機会もないからもらってほしいけれど、とりあえず無料のものが欲しい人にザバッと持っていかれる感じはあんまりすきじゃないなと正直思っていました。

気になる結果



無配2アイテムは直参の時の新刊と同じくらいの申込数
→これはちゃんと中身を見てほしいと思ってもらえた感じかな、うれしいね。
無配集めにはわくわくお試しパックがありますからね。




あましの(忍は今回ほとんど出てこないので、周くんとりんちゃんのおはなしですが)のことを見守ってくださっている方が選んでくださったのならうれしいな。



準新刊のカメラ=万年筆が複数出た!
→イベントカラー的にもあんまり目に留めてもらえないだろうと思っていました
正直割とつらい内容なんですけど(笑)(ぼくの本わりとまあまあセンシティブなんだよな)(作者のキャラと違って)向き合わずにいられなかったことを真剣に描いて本にしたもので、わたしはそのようにして送り出された随筆をこよなく愛しています。




ジェミニに複数申し込みがあった!
→これももうテキレボではじゅうぶん出回ったので出ないだろうと思っていたので(自分にとってすごく大切な本なので再版を続けていて、現在頒布しているのは三刷です)びっくりしたしうれしいです。
見つけてくださったんだなぁ。年月を経ても出会って下さる人がいる、というのはとても誇らしいことだと思っています。

ほぼ満遍なく売れる、というのは直参ならともかく、通常の委託参加や委託オンリーイベントでもまずないことなので、おすすめをしてくださった方の口コミ+カート販売システムによって目に留めていただけたおかげなのかな。
ありがたいことです。

11月の第十回は延期となったそうで、とても残念ですが、やきもきするのもつらいので早期段階での判断はとてもありがたいです。
「新しい生活様式」にのっとっての開催準備がすすむイベントもあるようですが、正直この状況の中ではみんなが安心して集まることはできないですしね。
リアルで集まれるイベントが以前のように行えることが一番ですし、主催者さん側の負担の大きさを思えばまたやってください! と言ってもよいのかはためらわれますが、またのチャンスがあればその際にも参加させていただけるとうれしいな、と思っています。



【今後のことなど】





9月の発行に向けてアンソロジー「ダレンと5つの心の扉」を制作中です。
わたしがきっと誰よりも楽しみにしているので、気を抜かずがんばっていかないとね。

また、ちょいちょいとお話をしていたのですが、現在準備中の新作の長編の主人公は小説家をなりわいとしており、彼が作品の中で新しく書き始めた物語が「ダレン」のおはなしです。
わたしの小説なので(…)割合センシティブな内容となっているのですが、ご興味を持ってもらえるとうれしいです。
ひとまず、ずっと書きたかったものを書き上げ、見たい世界を大好きで尊敬する皆様と一緒に作らせていただく機会にも恵まれととてもうれしく思っているので、引き続き完成に向けて気を引き締めて頑張っていきたい次第です。


個人通販はBOOTHにてお受けしております。(イヤリングをまた増やしたい)
もしよろしければお気軽にご利用ください。
ここまで読んでくださりありがとうございました、またお会いできますように。


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Text Revolutions Extraに参加しています

何はともあれコロナでこの二か月電車に乗っていなければおしゃれもしていないし、お化粧もしていない日々を過ごしています。
イベント参加は休止期間、チケットを取っていたライブの予定は一件だけ、と比較的軽傷に済んではいたのですが、日常が一変したストレスになかなか慣れることはできず、会社にいる間に手放せなかった胃薬と頭痛薬はこの二か月ほとんど飲まずに済んでいるのですが、手はボロボロに荒れているし、しばらくは本を読むことも小説を書くこともまともにできずにいました。
ようやく少しずつそういったインプットやアウトプットをできるようになり、いまは4年ぶりに書き上げた長編小説の赤入れをすこしずつ進めています。


近況報告はこの辺でおいておいて。

この度の新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、上半期開催予定だったイベントが軒並み中止となっている中、完全通販型の同人イベント「Text-Revolutions Extra」が開催されています。
手数料300円+送料(申込数によって増減します)で参加している300サークルの本やグッズを買える画期的な催しです。


☆購入方法☆
☆通販サイト☆


ライトノベルや歴史ものが強いイベントかな、という印象はありますが、初参加の方も今回はおおいようですね。
評論系やエッセイなどの中々普段は見落としがちなカテゴリーがおうちからだとじっく見られる! グッズ系も充実していて楽しいですね。
まだお願いしていないのですが、めいっぱい目移りしてしまいます。




めっちゃぼーっとしててデッフラを出し忘れてしまったのですが(えっ)、今回のおもなラインナップです。
WEBカタログで詳細な情報が見られます。




点数制限がないので、自粛期間が辛すぎて癒しのためにせっせと作ったイヤリングも今回置いてあります。






新作は9月に予定しているアンソロジーのご案内折本。
なんですが、告知するタイミングがなかったとは言えこのメンツをずっと黙っていたわたし、すごくないですか?笑
こちらも頑張って努めていきます。




「俺はおえかきで応援してるんだよ」


なにかしら良いご縁が出来ればよいなぁ。
みなさまどうぞよろしくお願い致します。



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あいのゆくえ





「ほどけない体温」から12年後の「もしも」のいまのお話。
周くんと忍とりんちゃん(と春馬くん)



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とつぜんの贈り物

周と忍、贈り物にまつわるお話。






「そういやさ、前から思ってたんだけど」
「うん、なあに?」
 なんの気なしの呼びかけを前に、焼鮭を丁寧にほぐしていた手はぴたりと止まる。
 ……こう見えて真面目なんだよな、こういうとこ。
「いや、なんでもないから。食べながら聞いてくれてていいんだけど」
 手元に引き寄せた大根の味噌汁を一口だけ飲み込み、周は尋ねる。
「それさ、そろそろ買い替えた方がいいよなって思って。ふちんとこ欠けてるだろ」
 手の中にすっかり馴染んで見える灰鼠色に縞模様の茶碗は、もう随分前に周の家で使うために、と買い求めたものだ。
「……そう?」
「そういうのってよく使ってると気づかないうちにひびが出来てたりすんじゃん。前にまっぷたつに割れたことあるし、したら危ないだろ」
「そうかなぁ……」
 途端に、いつものあのきらきらと好奇の色を宿していたまなざしには不安げな色が宿る。
 なに? それほどのことだった? たしか選んだのは忍だったとは思うけれど、そこまで気に入っていたとは露知らずだ。
「……でもそうだよね。こないださ、洗ってたらぶつけちゃって。そん時だと思う。割れなかったから大丈夫じゃんって思ってたんだけど。気をつけないとね」
 あからさまに気落ちしたようすでほうれん草のお浸しを口元へと運ぶ姿に、心はいびつなさざなみを立てる。
「ねえ周、のこりお茶漬けにする? お茶淹れるけど周のぶんもいる?」
「うん、いる」
 けど。立ち上がろうとするのを制するように机越しにそうっと手を伸ばし、さわり、と頭を撫でてやりながら周は答える。
「ごめんな、気に入ってたんだな」
「……違くて」
 途端にみるみるうちに顔を赤らめながら、不器用にもつれた言葉が洩らされる。
「周が買ってくれたやつじゃん。周に初めてもらったから……大事にしなきゃって思ってて、ずっと」

「買ってやるよ、どれがいい?」
「いいよそんなの、俺が買うから」
「俺んちで使うんだから俺が出さなきゃおかしいだろ。遠慮すんな、な」
「……ありがと」
 目を伏せながら遠慮がちに注がれた笑顔を、ありありと思い返す。

 忍が来るたびに使っていた茶碗が実家から持ってきたありあわせの古びたものだったのが、いつからかずっと気がかりだったのだ。
 用事の帰り道で出くわした陶器市で選んだ、有名な窯元でもなんでもないようなごくありふれたご飯茶碗。それが、周から忍への今にしてみれば『はじめて』の贈り物だった。

「おぼえてたんだな、そんなこと」
「おぼえてるよ……」
 いつになく弱気に投げかけられる言葉に、じわりと胸の奥ではあたたかな想いが広がっていく。
 ああもう、ほんとうに。
「こんどの休みでいい? またいっしょに買いに行けばいいじゃん。俺のも買い換えるから、そん時」
「周のぶんは俺が出していい?」
「ん、ありがとな」
 ゆっくりと頷きながら答えれば、瞼をふわりとやわらかに細めた、いとおしさだけで満ち溢れた笑顔が広がっていく。

 ささやかな幸福で満ちた日々は、こんな風にして静かに積み重ねられていく。



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