#手癖で恋に落ちる瞬間を表現してください
というハッシュタグで展開されていた様々な恋の瞬間があんまり素敵だったのでわたしも書いてみました。
ツイッターで書いたものに少しばかり加筆修正しております。
既刊のキャラクターたちがそれぞれ登場しておりますので、ちょっとした試し読みにでもなればなぁと思います。続きからどうぞ。
それに気づいていたのは、たぶんもっとずっと前からだけれど。
「どしたの?」
袖を捲くった手首のあたりにちら、と投げかけられたまなざしは、声をかけたその途端に、ほんの一瞬ですぐに逸らされてしまう。
「時計。きょう、してないなって」
目を合わせないようにして答えながら、伏せた睫毛が音もなく震わされるのをじっと見つめる。
冷たくくすぶった色のその奥にわずかに滲んだやわらかな、憂いに似たなにかを。
「いま、何時ってやつ? もしかして」
ちら、と遠くに見えた壁時計を見ながら投げかけた言葉を前に、どこか要領を得ない様子の、ぎこちないまばたきが投げ返される。
「……なんだよそれ」
不機嫌そうな口ぶりを前に、忍は答える。
「昔ねえ、いま何時ですか? って聞くナンパが流行ったんだって。ほら、みんなまだ携帯とか持ってない時代の頃ね。だからさ、周もそゆのかなって」
「……なんでんなことすんだよ、おまえ相手に」
閉ざされた瞳の奥にほんのわずかに見えた熱は、いっそわざとらしいほどにあっけなく、さめざめと冷やされていく。
「だってさぁ」
笑いながら、テーブルの下でそっと指を組む。ぎこちなくそらされたまなざしは鈍くくすんで、それでもその奥に、深くやわらかな光を宿していて。
(だって周、俺のこと好きだよね)
気づいたのはもちろん、自分だってそうだからに決まっているわけで。
(
ほどけない体温/忍と周)
このふたりはこの辺の過程を経て「穴が空くまで見てていいから、ね」に到達するわけです。
「こんにちは」
うんとよそ行きの笑顔とともに差し出した掌に、汗ばんで震えた指先がそっと重ね合わせられる。
伏せられたまなざしはかすかに潤まされたまま、それでも目をそらさずじっとこちらを見ている。置き去りにされていく子どもみたいにまっすぐに
(「
ジェミニとほうき星」/マーティンと海吏)
「それではまた、あの場所で」
「またこうして、偶然会えたら?」
「ええ、偶然に期待しましょう」
にこやかに笑いかけながらするりと踵を返す。その足元から伸びる長い影を、気づかれないようにそっと踏みしめるようにする。こんなことしたって、止められるなんてことないのに
(「
真夜中のころ」/遠峯と有川)
彼らの織り成す恋に出会っていただけるとうれしいです。
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