「言ってくれたんだ、無理に我慢したりつよがったりなんてしなくたっていいって。つらい時も不安な時も、素直にそう話してくれた方が嬉しいって。そんなの、ほんとにいいのかなんて今でも信じられないよ。でも、春馬はそう言って笑ってくれたから、だったら信じるしかないのかなって」
「……カイ」
慈しむように細められたまなざしが、僅かにそっと滲む。呼応するかのように、きつく結び合った指の先は微かに震える。
「マーティン……?」
どうしたの、とそう尋ねれば、心底困ったような微かに曇ったその表情が、どこか遠慮がちにこちらを捕らえる。
「あのね、カイ」
ふわり、と大きなその掌で、かき混ぜるように髪をそっとなぞりながら彼は答える。
「……嬉しいけど、おんなじくらいすごく悔しい」
微かに滲んだ言葉の端からこぼれ落ちていくそんな感情を前に、こらえようのないいとおしさがゆっくりと立ち上って、胸を淡く締め付けていくのを僕は感じる。
ほんとうに、なんて可愛いんだろう。こんなこと、言えるわけも無いけれど。
「……マーティン」
ふかぶかと息を吐き、僕は答える。
「嫉妬してくれたんなら、正直言って嬉しいよ。そう思ったらだめ?」
「……カイ」
くしゃり、と心底困ったように、それでもいとおしげに瞳を細めて笑ってくれるその笑顔に、まるで水を吸い上げるスポンジみたいに、みるみるうちにおだやかな想いに浸されていく。
「あのね、大好きだよ」
真似をするように、光に透けるやわらかな金色の髪をそっとなぞる。ただそれだけなのに、ふつふつとあたたかな想いが溢れ出して、揺らいだ心の奥をみるみるうちに溶かしていく。
確信を込めるように穏やかに微笑みながら、恋人は答えてくれる。
「僕だってそうだよ」
知ってるよ、という言葉は、うんとやわらかくて優しいキスにたちまち閉じ込められてしまったけれど。