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調弦、午前三時

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You make me.

ジェミニとほうき星、海吏とマーティン
東京文フリで配布したペーパーからの再録です。
いちゃいちゃしてるだけ。

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 可愛い、綺麗、大好き。
 なんどもなんども繰り返しそう言ってくれるから、自分の内側も、それを内包した生まれ持った器も、その両方をほんのすこしだけゆるせるようになって、ほんのすこしだけ前よりも好きになれた気がする。
 たぶんこんな風に言ったら、怒られるけど。

 好きだと思うその気持ちは、彼を構成する隅々のひとつひとつに、いとおしさを見出していくことに繋がっていた。
 指先、爪の形、ぎゅっと握りしめた時に伝う骨の感触、鎖骨の形、まばたきに合わせてさらさら揺れる睫毛と、頬に落ちる影。
 そのすべてが途方もなく好きだと、そう思った。どれかひとつでも違ってしまえば、こんなに好きにならなかったのかな、と思うくらいには。

 まどろみながら、しなやかな指先をそっと手に取る。
 ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて吸い付くようにしたのち、軽く歯を立てて甘噛みすると、幼い子どもをあやすみたいに優しく背中を撫でてくれていた掌が、びくりとその動きを止める。
「……どうしたの」
 心底困ったように曖昧に笑いながら答える恋人の頬にそっと手で触れる。
吸い付くようななめらかなその感触と、微かなぬくもりにひたひたと胸のうちから、こらえようのないいとおしさが溢れてくるのを抑えきれない。
「かわいいなあと思って」
 答えながら、つまみあげた指先のいっぽんいっぽんを手に取っては食むように唇を寄せる。
舌の先を這わせるようにしながら時折ゆるゆると歯を立てれば、びくり、と身じろぎをするその姿がますますかわいくてたまらない。
 食べちゃいたいくらいにかわいいってこういうことを言うんだろうな、きっと。
 食べたら無くなっちゃうから、そんなこと絶対しないけれど。

 薄い皮膚の下を流れる血液、骨、細胞のひとつひとつ(常に入れ替わっているとは言うけれど、もしかしたらそこにひとかけらでも自分の残したものがあるのならいいな、なんて思ってしまう)
 身体ごと、心ごと、全部を好きになるというのはこんな感覚なのだろうと思った。
どちらか片方じゃきっとダメだった。
 この器も、その隅々まで行き渡った心も、その全部を叫び出したいくらいに好きだと思った。
終わりのない「好き」に落ちていく感覚は、ぬるま湯に浸るのによく似ている。
 指先で、唇で、舌の先で。
 確かめるように触れるその度、彼の輪郭と、その内側にひそめた心が自分の中でもぱっと色づいて、花を咲かせるのを感じた。
 もっと触りたい、もっと近づきたい、全部を彼で満たしたい。でも、溶けあって輪郭を失ってしまったら彼がなくなってしまう。
 もどかしくて苦しくて、どうしようもなく寂しくて、誰よりも幸福だった。

 ゆるく掴んだ手首を引き寄せて、掌をそっと頬に擦り寄せる。
 こんなになめらかであたたかくて、吸い付くみたいにぴったり触れ合って、それなのに重ね合わせた場所から溶けていかないそのぬくもりに、息がつまる。
「ね、好きだよ」
 掠れたその声は、まるで懇願するみたいで。情けなくて、それでも言葉にせずには居られない。
「……知ってるよ」
 答えながら、べたべたにした指先で髪をそっとなぞられる。
 掬ってははらい、を繰り返されるその度、内側からふつふつと、熱のこもった衝動が溢れ出しては静かに溶けていく。
 暴れ出したいくらいに気持ちがおさまってくれないのに、心ごとぎゅっと掴まれているせいか、身動きひとつ出来やしない。
「カイは……」
 瞳を細め、くすくすと笑いながら恋人は答えてくれる。
「頭の形が、すごく綺麗だよ。こうして触ってると、すごくよくわかる」
 かわいい、と囁くように呟きながら、そっと額にキスを落とされる。
 ひとつひとつを慈しんでくれるその度に、幾度となく生まれ変わるような、そんな眩暈のするような幸福な感覚に襲われていく。
 この身体に生まれて来られて良かった、と、心底そう思った。
 だって、こんなに愛してもらえている。
 そうわからないと、自分の身体も心も大切に出来ないなんて、とんだおおばかだなんてことはわかってる。
 それでも、大切にされているとそう思えば思えるほど、泣きたくなるほどに「生きていてもいい」と思えたのは確かだった。

 微かに熱くなった瞼をぎゅっと閉じて、肩の窪みにそっと押し当てる。
 薄いシャツの布地越しにゆるゆると歯を立てて、なんどもなぞった形の良い鎖骨を触れたその感触でそっと確かめていく。
 こんなに大好きで、終わりも果てもないくらいに大好きで、どうしたらいいんだろう。
「くすぐったいよ」
 咎めるような、それでいてうんとあまい響きをひそめた言葉が降り注ぐ。
「……ね、どきどきする?」
 くぐもった吐息を漏らしながらぎゅっとしがみつくようにすれば、びくり、と微かに腕の中で、抱き寄せたその身が震える。
 この奥に、淡くくすぶる欲情が揺らめいているのを知っている。それを引き出すことが許されているのが、嬉しくて仕方がない。
「安心してよ、食べたりしないよ?」
 悪戯めいた響きでそっとそう答えれば、返事の代わりのようにぎゅっときつく抱き寄せられた。






You make me happy.
あなたの愛が僕を形作っている。

ここまで読んでくださってありがとうございました!
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