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調弦、午前三時

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幸福な昼食

「ほどけない体温」周くんと忍がインスタント焼きそば食べてるだけのお話。
ツイッターで焼きそばの作り方タグがはやってたので勢いで。


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 ジャンクフードと揶揄されるようなものを時折無性に口にしたくなる時、自らの貧乏舌も捨てたものではないと思うのだ。

 シュンシュンシュン。
 湯気を立てるやかんの火を止めて、かやくをセットして(もちろん麺の下に、シンクに流してしまわないように)ふたを剥がしたカップに注ぐ。すぐさま重石の皿を載せ、あらかじめセットしておいたタイマーのスイッチを入れる。規定の三分よりも短めに、少し芯が残るくらいの固さが好みだから。
「ねー、なんかテレビつける?」
「ん、なんでもいいけど」
 ぱちん、と音を立てて点された画面に映るのは、お宝品の鑑定番組。ああ、これは割と嫌いじゃない。オンタイムでわざわざ見る気にはならないけれど、食事時に流し見するのにはちょうどよい緩さで。
「それでは鑑定結果です!」
 にぎにぎしい声と点滅する液晶画面の数字をちらりとキッチンから眺めていれば、間を読んだかのように忙しないタイマーの電子音が鳴り響く。
 はいはいはい、できあがりっと。両端をしっかり持って湯きりをすれば、ボコン、とシンクに鈍い音が響きわたる。

『鑑定金額は驚きの五千万円です』

 わぁすごい、テレビなんだから多少色は付いてるだろうけれどそれにしたって。特売品のカップ焼きそばが何万個買えるんだか、とだなんて思う程度には現実離れしたゼロがいくつも並ぶ画面をぼんやりと横目に見ながら、ピリ、と破いたソースをまわしかける。おまけのふりかけももちろん忘れずに。
「ねー、マヨネーズかけて。ちょっとでいいから」
「おう」
 冷蔵庫から取り出したカロリーハーフマヨネーズ(コレステロール対策なんてのではなく、単純にこっちが特売になっていたから)をつつ、と回しかけ、トレイの上にふたりぶんの箸と蓋を取り外したカップ焼きそばをふたつ並べる。食器が汚れないのはいいけれど、なんだろうこの手抜き感。まぁいいか、たまには。
 野菜が足りないのが少し気がかりなので、冷蔵庫に少しだけ残っていたブロッコリーの炒め物もトレイに載せる。

「ほら、出来たぞ」
「ありがとうー」
 にこにこと笑いかけながら、ポットに入ったほうじ茶をグラスに注がれる。マヨネーズをかけた方をずい、と差し出せば、たちまちにうれしそうな笑顔。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
 テレビ画面の中では、夭折したという天才画家を紹介するVTRがぼんやりと流れている。


「なんかさー、たまーに食べたくなんだよねえ。この微妙ににせものっぽいとこが良いって言うか」
 寝癖のついた髪のまま、口元をソースで汚しながら目の前の男は答える。折しもテレビ画面の中では贋作の話題が飛び交う。
「ま、たまにはな」
 少し湯切りを早めにした麺はまだ芯が残って、ぽりぽりとスナック菓子のような食感が楽しめる。生麺では味わえないこのチープさはインスタントならではだと周も思う。
「なんかさー、グルメマンガとかってあんじゃん。こだわり抜いた食材が~とか秘伝の調理法が~ってうんちく言っちゃうやつね」
 ずる、と勢いよく麺をかき込むその傍ら、箸に突き刺したブロッコリーをテンポよく口へと放り込みながら忍は答える。
「ああいうさ、すっげ舌が肥えてる人ってぜったい損だよね。あんなこといちいち言ってたら一年三五十日くらいは妥協したものしか食えなくない?」
「……言われてみればだな」
 そりゃあそれだけ鋭敏な味覚の持ち主なら、コンビニもファーストフードも冷凍食品も特売品の食材も受け付けないであろうことはたやすいのだし。
「よく言うじゃん、○○が食べられないなんて人生の半分は損してるって。そじゃなくてさ、ほんとに良いものしか食えない人の方がいちいち損だと思うんだけど」
 答えながら、青海苔のついた唇をにいっとゆるませて微笑む。
「いちいちんなこと考えてんのな、おまえ」
「そっかなぁ?」
 にこにことうれしそうに笑いながら、口いっぱいにインスタント焼きそばをほおばる姿にどこか心はゆるむ。
 なにを食べていてもいやにうれしそう(少しばかりの好き嫌いはあるけれど)なのはこの男の長所のひとつで、こうしているだけでこちらまで和まされているのは事実なのだし。(あまり言葉には出さないけれど、ほめるとすぐ調子に乗るから)

「周はさぁ」
 残り少なくなったブロッコリーの皿をずい、とこちらに差し出しながら、忍は答える。
「まえはさ、ご飯食べてる時あんま喋ってくんなかったよね」
「……まぁ」
 この男のせいで、喋りながら食卓を囲むという習慣にどうにか慣れたからではあるけれど。
「なんかねえ、楽しいなあって」
 なんでそんな些細なことで笑えるんだろう、こんなにもうれしそうに。
「……よかったな」
 果たしてこう答えるのが正解なのかどうか。わかりもしないまま、ひとまずは箸の先に突き刺した緑も鮮やかなブロッコリーを口に運ぶ。

 ものを食べる、だなんてどこか義務や習慣めいた事柄が、こうしてこの男がいるだけでがらりと意味合いが変わるのは確かだ。
 あたりまえのように生活の中に組み込まれているプログラムのその中に忍がいる、それだけで、こんなにも生活は色や形を見る見るうちに変えていく。そのことが、ただ周にはうれしい。

「ねえねえこの後さ、ぶどうもらってたのあるじゃん。あれ食べようよ」
「おう」
「でさ、こないだ録画してた映画見ようよ。周きょう用事ないって言ってたもんね?」
「いいけど、その前にふけよ、口。ソースついてんぞ」
「周だってそうじゃん。ほら、はじんとこ」
 テーブル越しに指しのばされた指先は、なんのためらいもない様子で口元をぬぐう。
 得意げな笑い顔と共に何気なく差し出されるそんなささいな仕草に、すっかり溶かされてしまった胸の奥はあっけないほどに沸き立つ。

「いまちゅーしたらさぁ、ソース味なんだよね」
「……まぁ」
「なんかそれもちょっとやだよね、焼きそばおいしいけど」
「……磨けばいいだろ」
 いつもどおりの無邪気な口ぶりで告げられる言葉にこんなにもじわじわと心ごとからめ取られてしまうのは、いつまで経っても変わることなどなくて。




 歯を磨いた後の顛末は、ひとまずここでは語らないということで。
 (あえて言うのならば、「ごちそうさまでした」とだけ)






「ほどけない体温」とは

口が悪くて素っ気ないツンデレの周くん(最終的に攻め)
×
おおむねうざくて人たらしで無邪気な忍(最終的に受け)

がご飯を食べたりご飯を食べたりご飯を食べたりしながら親睦を深めるんですが割とど重いしすげええっちだよっていうBLです。(ダイマ

ウェブにあげてるお話は周くんがデレたあとのお話ばっかりですが、よろしければおおむね鈍器のような本編にもお付き合いくださるとうれしいです。

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