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調弦、午前三時

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いいこ、いいこ

「春、間近」の没ネタの供養。
周くんと忍がいちゃいちゃしてるだけです。









 かわいな、と素直にそう感じる瞬間がいくつもある。偏差値的な価値基準なんかではもちろんなくて、いとおしいとかそういった類の。
 その都度伝えれば調子に乗るのは目に見えているので、もちろんいちいち口にはしないけれど。(そもそも、はずかしいので)

「忍、」
 かたわらで、見るとはなしにぼんやりとTVの画面を眺める姿にそっと声をかける。ちょいちょい、と手招きをしてやると、なんの疑問もない様子で間合いを詰めてくる無防備さに思わず笑いだしそうになる。
 まぁ、いまさら警戒されたって困るのだけれど。
「どしたの周」
 しばしば投げかけられる問いかけの言葉が、いつもどおりの様子でまた、周のもとへ届く。
 決して周を頭ごなしに否定したりなんてしない、やわらかな肯定だけを溶かしたやさしい響き。

 ぱちぱちと、まばたきをして見せる明るい薄茶色の瞳をじいっと見つめるようにしたまま、周は答える。
「かわいいなって思って」
 素直にそう告げた途端、こちらをまっすぐにまなざす虹彩の奥で、ぱちぱちと色とりどりのガラスがはじけるように、幾重もの光の洪水が巻き起こる。
「……どしたの」
 いつもの余裕はどこへやら。途端にうろたえて見せる姿は素直にかわいい。
「ほめてってしょっちゅういってんじゃん、おまえ」
「脈絡なくいきなり言われても困んだけど」
 かすかに赤らめた顔をじいっと覗き込むようにしながら、周は答える。
「空があんまり青いから?」
「夜だよ、いま」
「いいじゃん、なんでも」
 揺らいだ虹彩の奥できらきらとまばゆい光が幾重にも重なり、わずかに滲む。なんの飾り気もない、そのあたたかさにいつしか焦がれるようになっていた。
 心ごと縫いとめられるようなするどさを感じていたはずのこのまなざしに、こんなにも穏やかなぬくもりを受け止められるようになるだなんて思いもしなかったのに。
「しのぶ」
 ぬるい吐息を吐き出しながらくしゃくしゃとやわらかな髪をなぞりあげるようにすれば、指の先からつたうぬくもりはいつしか胸のうち、心の隅々までもやわらかに照らし出してくれる。
「……すきだよ」
 ぽつりと投げかけられるくぐもって滲んだ声はいつだって、周が何よりも求めてやまないものをまっすぐに届けてくれる。
「知ってる」
 ずるいよ、という返事には、ひとまずは聞こえないふりをしてやり過ごすのだけれど。

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