「あなたの前ではカイはどんな風なの?」
恋人の姉からふいに投げかけられたそんな問いかけを前に、僕は答える。
「優しくて、まっすぐで、そのくせうんとつよがりで、意地っ張りで……甘えたがりで、頑張り屋で。それに何より、あなたのことが大好きだよ」
最後の一言を告げたその途端、ふるふると長い睫毛を震わせながら、憂いの色を隠せないそのまなざしにそっと囚われる。
「……うそ」
儚く滲んでいくそんな言葉を前に、そっとかぶりを振るようにして払いのける。
「うそなんてついて、どうするの?」
唇の端を引き結ぶようにしてぎこちなく笑えば、表情を追いかけるかのように、にぶく軋んだ心がふわりと浮き立つ。
微かな迷いを振り切るように、きっぱりと僕は答える。
「彼はずっと、誰よりもあなたのことが好きだよ。僕が好きになったのだって、あなたを好きなカイのことだからね。言ったんだよ、『代わりにはなれないけれど、君の側に居させてほしい』って。ずるいよね? でも、どうしてもほしかったんだ」
「……」
気まずい沈黙の波が、さらりと心を覆う。
どうしてだろう、こんなにも苦しいのに、こんなにあたたかい。
誰かを好きだと思うそのたびに感じるのとおなじあまい息苦しさがゆるやかに胸をつたい、心を静かに軋ませていく。
そっと息を吐き、僕は答える。
「カイのこと、奪ってごめんね」
「……そんなこと」
ためらいを隠せない様子で漏らされる言葉を前に、不器用な笑顔でそっと打ち消す。
「幸せにするから」
信じてくれなくてもいいよ、という言葉は、そのまま胸の奥にすっと飲み込む。
「……ありがとう」
掠れた、それでも確かな意思を込められた言葉と共に、微かに震えた指先が、こちらのそれをぎゅっときつく掴む。
どこかおぼつかないその感触も、そこからつたうたおやかなぬくもりもーーその全てが、こらえようのない安らぎに満ち溢れている。
「カイのこと、すき?」
潤んだまなざしをじっと手向けるようにしながら掛けられる言葉を前に、小さく頷いて見せるようにしながら、僕は答える。
「世界中の誰よりも、一番好きだよ」
答えながら、絡めとられた指先に込めた力を、ほんの少しだけ強めるようにする。
おんなじだね。
恋人の初恋の相手は、そう答えながらどこか誇らしげに笑った。