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調弦、午前三時

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魔法の言葉

ほどけない体温、周くんと忍。
J.GARDEN40ペーパーラリー参加の小話からの再録です。
ちゅっちゅしてるだけやで。笑

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 コミュニケーションの形に正解を求めるのがナンセンスなことくらい、重々承知しているつもりではいるけれど。


「周、かわいい。好きだよ。あまね、だいすき」
 繰り返し繰り返し、熱のこもった燻った吐息をしきりに落としながら告げられるその度、戦慄くように身体中が熱く火照らされてしまうのにはいつまでも慣れない。
 あまりの気恥ずかしさに堪えきれずに両掌で顔を覆うようにすれば、その都度たちまち引き剥がされて指先一本一品までなぶるように口づけられ、熱の籠った身体はますますシーツの上に溶かされていくばかりだ。
 こんなのおかしい、恥ずかしい。でも、触れてもらえないだなんて考えるだけで気が狂いそうだ。

「なんで隠すかなぁ?」
 拗ねたような、それでいてどこか得意げ様子を隠せないままの口ぶりと、狂おしいほどの熱を隠さないまなざしでじっとこちらを捕らえたまま、忍は答える。
「言ったじゃん、かわいいからちゃんと見せてって。縛ったりとかそういうのはしたくないからさ、良い加減慣れてよ」
「……しつこいからだろ、おまえが」
 ぐらぐらと揺れるまなざしで、それでも精一杯に睨みつけるようにしながら答えれば、ふやけきった唇にわざとらしく音を立てて口づけ、告げられる言葉はこうだ。
「周がかわいいからじゃん、じゃあなんて言えばいいの?」
「……だから言わなくていいって、いちいち」
 答えながら、差しのばした掌でくしゃくしゃと柔らかに髪をかき混ぜる。
 胸の高鳴りと呼応するかのように指先が震えてしまっているのがひどく無様だ。だってこんなにも熱くて、心ごとぐらぐら揺さぶられてしまっているのだから仕方ない。そんなの、目の前の男だって同じだ。
「んんー」
 不満げに唇を尖らせたのち、ちゅっちゅっと音を立ててゆるやかに耳朶を食みながら囁かれる言葉はこうだ。
「周、いやらしいよ。周の身体、すごくえっちだよ」
 熱い吐息を吹きかけながら告げられる言葉と共にじっとりと汗ばんだ肌の上を、なめらかな指先がつたう。ぞわぞわと背骨を伝うようなあまやかな痺れにたちまち逃げ出してしまいたくなるのに、きつく手足を絡め取るように覆いかぶされているせいで身動きひとつとれやしない。
「……だからなんでそうなるんだよ」
「だってかわいいとか好きって言ったらダメって周が言ったからじゃん?」
 ムキになって答えるこちらの様子など少しも気にも留めない様子で首筋にちゅ、ちゅ、と口づけを落としながら上目遣いにそう告げられると、堪えようのない疼きを潜めたあまい痺れはますます深まるばかりだ。天然でこれをやってるんだから、全くもって恐ろしくて堪らない。
「ねえ周、もっといやらしいことしていい? ていうかしよ、ね?」
 潤んだ瞳でじっと見つめながら囁かれると、身体の芯からとろとろと行き場のない熱が溢れ出していくのを抑えきれない。もうしてるだろ、なんて無粋な言葉はひとまずは飲み込んで。
 だって、もっとしたい。こいつとなら、終わりも果てもないままこうして互いを貪っていたくて堪らない。
 こんなにも凶暴で貪欲な混じり気のない想いで誰かを求めるのなんて、きっと後にも先にもこいつひとりしか居ないに決まってる。
「……忍」
 しきりに髪をなぞっていた指先に自らのそれを重ね合わせ、ほんの一瞬、僅かに力の緩んだそのひと時を狙い定めるようにして、ぎゅっと手首をきつく掴む。
「……周?」
「隙あり」
 そのままぐるりと身体を反転させて、形成逆転とばかりに覆いかぶさってやる。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てて上下の唇を緩やかに食み、微かに赤く火照った耳や首筋、汗ばんだ喉や鎖骨にも口づけを落とし、緩く歯を立てるようにする。
 無邪気に笑いながら、それでもびくびくと堪えようのない情欲の熱に揺らされたまなざしでこちらを見つめ返してくるのが、途方もなくいとおしくてたまらない。
「一回しか言わないからな、よーく聞けよ」
 両掌でぎゅーっと頬を挟むようにしながら告げる言葉はこうだ。
「おい忍、好きだぞ」
「……けち」
 生意気言いやがってこのやろう。
 喉の奥だけでそう悪態をつきながら唇を重ねあわせれば、たちまちに貪り尽くすような貪欲さでうんときつく舌を絡めとられる。
 あんまり熱くて柔らかくて、今にも溶かされそうだ。
 こうして触れ合うほどに形にならない気持ちが溶け出していくだなんて、今までずっと知らなかった。それでも、どこから来たのかわからないこんな不思議な熱は、どれだけ過ぎ去っていっても、いつまでも胸の奥でずっと消えないだなんてことも。




「周はさー」
 気だるい熱の余韻に浸されたままの身体を横たえたまま、ふいうちのように忍は尋ねる。
「照れてると不機嫌になるよね。最初はほんとに怒ってんのかなって思ったけどさー。 いい加減慣れるかなって思ってたんだけど、なかなか慣れないよねー?」
お得意のにやにや笑いと共に告げられる言葉に、呆気ないほどに無様に感情を揺さぶられてしまう。
 それなのにちっとも嫌じゃない。そこに掛け値なしの温もりが潜んでいることを、身体と心の両方で嫌になるくらいに思い知らされているからだ。
「……悪いかよ」
「ほらー、こういうのだよねー。ほんっとかわいいなー」
 うんと得意げに笑いながら、少し汗ばんだ指先でくしゃくしゃと乱暴に髪をかき混ぜられる。
 子どもみたいな邪気の欠片もないそんな仕草に、相反するかのように煽られているかのような心地を受け止めてしまうのがひどく恥ずかしい。
「おまえの悪趣味も大概だな」
「いい趣味だと思うけどなー?」
 指先を摘むようにそっと手に取り、ちゅっと僅かに音を立てて口づけを落としてやれば、途端に子どもみたいに無邪気に笑いながら瞳を細められる。
 いつだってみっともないほどに剥き出しの無防備なそんな心に、心ごと揺さぶられて身動きを奪われてしまうのも一度や二度どころではなくて。
きっとこれからだって、幾度となくこんな風に思い知らされるのなんて、目に見えていて。
 こんな自分のどこが好きなのかなんて、たぶん一生かかっても周にはわからない。でもきっと、それで構わない。
 どんなに望んだって見せ合えない心と心の両方でこんなにもお互いが大切で、必要としているのを知っているからだ。

「悪かったな、素直じゃなくて」
「気にしてたわけ?」
 くすくすと掛け値なしの微笑みをこちらへと手向けながら、忍は答える。
「でもさ、あんまり素直になったら周じゃ無くなっちゃうよね。だからいいよ、いまのまんまで」
 真っ直ぐに向けられる言葉は、どんなに飾り立てたそれよりもずっとたおやかに優しく、周を心ごと包み込んでくれる。
 いとおしい、というのはたぶん、こんな感情につける名前なのかもしれない。

「……周はかわいいなぁ」
「だからなぁ」
 棘を秘めた口ぶりでそう答えながら、もう何度目かわからない溜息を吐き出す。本当に嫌、なんかじゃないことくらい、目の前の男がいちばん知っている。

 おまえはその一〇〇〇倍はかわいいだろ、わかってんのかばかやろう。

 そんなこと、悔しいから勿論言ってやるつもりないけれど。

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