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調弦、午前三時

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apple of his eyes.

第51回 #一次創作bl版深夜の真剣120分一本勝負 に参加します。
お題:赤い顔

ジェミニとほうき星、海吏とマーティン


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「そういえば、前から思ってたんだけど」
 グラスの中でゆらゆらと揺れるスパークリングワインのかすかな泡がはぜるさまをぼんやりと眺めながら、僕は尋ねる。
「あんまり顔に出ないほうだよね、君って」
「出るまで呑まないってだけだとは思うけれど、まぁ」
 ソファのもう片側に腰を下ろした恋人は、答えながらするりと滑らかな手つきでグラスを傾けて見せる。かすかに喉を震わせるその仕草につれて、月明かりを溶かしたようなあわく光る液体が流れ落ちていくさまを想像すれば、おのずと胸の奥はかすかに沸き立つ。
「それだけじゃなくって」
 カプレーゼにそっと手をのばしながら、続けざまにつむぐ言葉はこうだ。
「君の顔が赤くなるところって、そういえばほとんど見たことがないなって」
 なんの気なしにぽつりと吐き出す言葉を前に、かすかに揺らいだ視界の向こうで、濡れたまなざしにはわずかな好奇の色が光る。
「だったら、赤くならずにいられないようなことでもしてくれるの?」
「……なんでそうなるの」
「だってそうじゃない」
 くすくすと喉を震わせたうんと控えめないつもの笑い声に、あっけないほどに心は揺さぶられ、ぐらりとあまく揺れる。ほら、気のせいじゃなければもうわずかに耳が熱い。わかっているくせに、こちらを翻弄するようなそんなそぶりはいつまでたっても変わることなんてありやしない。
「どうしたの、まだそんなに呑ませたつもりないけど?」
 手慣れた手つきでするりと伸ばされた指先は、しばしばそうするように、かすかに赤く火照らされた耳を包み込むようなやわらかさでなぞる。
 ──冷たくて気持ちいいのは知っているけれど、それはちょっと。
「素直だよね、カイは」
「……君がそうじゃないって言ってるわけじゃないよ」
 ふるふると首を震わせて答えれば、じいっとこちらをのぞき込むように見つめながら、いつも通りの淡く優しい言葉がふわりと降りてくる。
「そんなこと言ってないよ」
 答えながら、耳のふちをゆるゆると指先がなぞる仕草に身を委ねる。はずかしくて仕方ないのに、やめてほしいわけじゃないことくらいはとうの昔に知られているのがなんだかおかしい。
「触るね、」
 ひと呼吸をおくようにしてそう宣言をした後、両掌で包み込むようにそっと頬に触れる。しっとりと吸いつくようになめらかであたたかな感触に、触れたその先から溶かされていくかのような心地よさを覚える。
 すこしだけ冷えた指先がじわりとあたためられて、せりあがったぬくもりが心ごとひたひたと満たしてくれるのがこうしているだけでわかる。
 それでも、なめらかな頬だけじゃなくって、指先で掬うようにして髪をはらったその下から顔を覗かせた形の良いやわらかな耳だって赤く染められていないのがすこしだけ悔しい。 
「そんなに赤くなってほしい?」
 こつんと額と額を寄せ合いながら、耳朶をくすぐる指先の動きに身を委ねるようにする。こうしていればますます熱くなるのがわかるから、顔なんてあげられるわけもない。
「……だって」
 唇を震わせるようにして、精一杯に僕は答える。
「僕ばっかりわかりやすくて、なんかはずかしいなって」
「いいじゃない、かわいくて」
 手持ちぶさたに揺らした指先を、捕らえるようにそっと自らのそれを絡められる。 
「ちゃんと熱くなってるよって、そういったら信じてくれる?」
 握られた指をするりと胸元へ導かれれば、触れたその先からはかすかな鼓動がつたう。
「……すこしクールダウンする?」
「うん、」
 答えるのに合わせてくれるように、ゆるく重ね合った指先がするりと剥がされる。

 お互いの掌の中、もて遊ぶようにゆらりと揺れる水面を眺めるようにしながらワインにそっと口をつける。滑らかに喉の奥へと滑りおちる感触は、冷たくて心地よいのに、ほのかに胸の奥を高まらせてくれる。
「アップルシードルってそういえばあんまり呑んだことないや」
「口あたりが良いよね、それに香りも」
 ぱちぱちと喉の奥でわずかにはぜる余韻も、あまやかで心地よい。
「──いまさらって思うだろうけど、ね」
 ミネラルウォーターのボトルに手をのばしながら、僕は答える。
「不思議だよね、なんだか。僕たち、出会ったばかりの頃はまだおたがい子どもだったじゃない? こうやって並んでお酒が呑めるようになるくらいあの頃から時間が経ってるだなんて、いまだに時々くらくらしてくる」
「いいことじゃない。いっしょに大人になってきたってことでしょ」
 そしてまだ見ぬその先にも、ふたりで辿る未来があるのを知っている。
「君がはずかしがりなのは変わらないよね、ずっと」
「君がいじわるなのもね」
「なんでそうなるかな」
 すこしだけ不服そうに、わずかに赤く染まった耳をひっぱられる。でも、ちっとも痛くなんてない。
「ねえ、僕のことも赤くしてくれていいよ」
「どうしたらそうなってくれるの?」
「教えたら意味がないでしょ、そこは。君にまかせるよ」
 笑いあいながら淡い口づけを重ね合えば、触れたその先でぱちりと泡がはぜる。

 胸の奥で揺らぐ熱は浮かび上がってはやわらかに膨らんで泡になっては立ち上り、それでも溶けて消えてしまうことなんてちっともなくって。火照らされた熱は、いつまでも冷めることなんてないままで。


 冷めることなどあるはずもない熱の余韻をくゆらせたまま、かすかに火照った熱をさわさわと揺らす指先の優しい感触に身を委ねる。
 このおだやかさにたどってもらえるのなら、いくらでも赤く染まってくれて構わないだなんて──自分でも、調子がいい話だとは思うけれど、それでも。
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