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調弦、午前三時

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四角い景色

ピアニストの恋心、桐緒と荘平

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「これが鎌倉で、これは北陸の時ね。で、これが能登で見た灯台で・・・・・・そうそう、これが見せたかったんだよね。確か先々月の熊本で」

 しなやかな指先は、スマートフォンの画面を自在に操りながら私の目にした事のない景色をどんどん目の前に繰り広げていく。
 かろやかな横スクロールによってどんどん塗り返られていく景色はまるで、昔いとこのお兄ちゃんの家で遊ばせてもらった古いゲームの画面の切り替わるところみたいだな、なんてどうでもいい事をぼんやり思ったりするわけだけれど。
「あれ、この人誰だっけ。見た事ある気がするんだけど」
「三浦さんだよ。最近髪型変えたんだよね」
「ああ、やっぱりそっか」
 知ってる人、知らない人、一方的に知っている人。(時折、びっくりするような有名人が混じっていたりする)
 四角い画面に切り取られた世界には、私の知らない時間軸の中で、私には到底届かないような世界を自在に行き来する彼の旅の片鱗が幾つも残されている。
「でもさぁ、こういうのって普通はツイッターとかに載せるんじゃないの?」
 まぶしいほどの青空、訪れた各地の建物、水平線の向こうまで見えるような透き通った深い青の海。得意げに見せてくれる美しいその光景は、画面越しによく見るそれにどこか既視感を感じるものばかりだ。
「別にいいんだよね、そういうのは。あんまり興味がないってのもあるけど」
 にこやかに、そっと微笑みながら荘平さんは言う。
「なんていうかさぁ、不特定多数に見せたくて撮ってるわけじゃないんだよね。そうしちゃったら目的が変わっちゃいそうじゃない。俺はさ、桐緒さんに見てほしいだけなんだよね」
「……荘平さん」
「あれ、なんか変な事言った?」
「そうじゃなくて、その」
 何気ないそんな一言がこんなにも嬉しい事に、私はいつまでも慣れないままでいる。
(いい加減、あなただって気づいてくれていいんですよ)



2014/05 9月の大阪文フリと10月の恵文社文芸部無配ペーパーからの再録です。
貰って下さった皆さんありがとうございました。
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