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調弦、午前三時

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ピアニストの恋心、桐緒と荘平




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「桐緒さんはさー、学校でなんて呼ばれてるの」
 興味しんしん、と言った様子で身を乗り出すようにして尋ねる彼を前に、ごく淡々と私は答える。
「別にその、普通ですよ。きりおとか、きりちゃんとか」
「きりちゃん」
 にやにや笑いと共に投げかけられる呼ばれなれない呼称に、思わず身を強張らせるようにしながら私は言う。
「そう呼ぶの止めてよ。なんか変だよ」
「そうかなぁ?」
首を傾げる荘平さんを前に、思わずムキになりながら私は尋ねる。「そういう荘平さんはなんかあったの、あだな。小学校とか中学校とかでもいいからさ」
「だねえ……」
 ぼんやりと空を見つめるかのようにしながら、荘平さんは答える。
「そうちゃんとか、そうくんとか。やまちゃんって呼ぶ人子も居たけどあんまり定着しなくて。なんかこう、やまちゃんキャラとそうじゃない人って居るじゃない。俺はどうも後者だったらしく」
「まぁ確かにやまちゃんって感じ、しないもんね」
「でしょー?」
 得意げに笑いながらそう答えるその人のやわらかな響きをたたえた声に合わせて喉仏が微かに揺れる様を、私はぼんやりと眺める。
「そうちゃんっていうのもなぁ、なんか私が言うと変じゃない? 大体、年下なんだし」
「年下でも言う人いたけどね。そうちゃんとかそうくんとか。なんでか荘次郎って呼ぶ人もいて」
「……女のひと、ですか」
「なるほど、やきもちですか」
「……だから何でそうなりますかね」
そう答えながらも、図星なのは確かなので些か分が悪いのは仕方ないのだ。
「俺はさ、桐緒さんが『荘平さん』って呼んでくれるの気に入ってるんだけどね」
「私も……」
ニコニコとどこか誇らしげに微笑むその表情がまぶしくって、私は思わずそっと目線を逸らしたまま、滴をたっぷりつけたグラスを眺める。

ほんとうはすこしだけ『桐緒』と呼び捨てでそう呼んでほしいと思っている事はまだ、黙っておこうと思う。



2015年3月(ってなってるけど書いたのは去年のはず)



この二人の何気ないやり取りは幾らでも書ける気がします。

とりあえず一冊分まとめたら自分の中で区切りがついたんですが、わたしが彼らに会いたいので小ネタが思いついたらまた何か書きたいな、書けるといいな。

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