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調弦、午前三時

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サンタクロース見習いの朝

クリスマスの朝の光景(あましの)


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 ……いい加減、そろそろ大丈夫だよな。たぶん。
 小一時間ほど狸寝入りでやり過ごしたところで、片側のベッドの主のようすをそうっと確認してみれば、すっかりおなじみになったうんとあどけない顔で規則正しい寝息をたてながら眠りに就く姿が確認できる。よし、問題なさそうだ。
 
 起こさないように、起こさないように――細心の注意を払いながら分厚い毛布をめくり上げ、寝床を後にする。クローゼットの中には、数日前から用意してあったひどくささやかなプレゼントがしまってある。
 まさかこんな自分にまでサンタクロース稼業を担う日がくるようになるだなんて――人生ってやつは中々どうして、想像のつかないことの連続でできているらしい。
 隣のベッドで眠る〝いい子〟の分と、自作自演になってはしまうけれど、自分の分(いくら〝悪い子〟だからと言っても、サンタさんからのプレゼントが自分の分だけだと知れば、〝いい子〟を悲しませてしまうことになるのは間違いないので)を順に枕元に置いたところで、ゆっくりと深く息をのむ。
 さて、無事にミッションは完了――あとは朝になるの待つのみだ。
 くしゃくしゃにたわんだ布団をめくり、ゆっくりと寝床に入れば、途端に、じわじわとしみ入るようなぬるいまどろみが全身を心地よく包み込んでくれるのを肌で感じる。
 
 メリークリスマス、また明日な。
 やわらかな髪をそっとなぞりながら、喉の奥でだけ、優しいささやき声を洩らす。
 
 
 
 カーテンの隙間からこぼれ落ちる光が、きょうもまたこうして、ありふれた朝の訪れをおだやかに知らせてくれる。
「あまね……おはよ、メリークリスマス」
 いまだ重そうな瞼をゆっくりとしばたかせながら、半分とけかかったやわやわのマシュマロみたいなぐずついた声が耳朶を優しくくすぐる。
 もどかしげに身じろぎをしながら、我がもの顔でこちらの側の布団へと潜り込んでぎゅうぎゅうじゃれついてくるまでが、もうすっかりおなじみの休日の朝の恒例だ。
「おう、おはよ」
 子どもをあやすみたいにとんとん、と背中をなでてやりながらくぐもって掠れた声で答えてやれば、にいっと得意げな笑顔が返される。
「あまねきょうさぁ、クリスマスじゃん。サンタさんにさ、今年はあいさつしよって思ってたんだけど――俺さ、ねちゃったから」
「残念だったな」
 くしゃくしゃの髪をかき回しながら、促すようにと片側のベッドへ押し返す。
「でもよかったじゃん、サンタさんちゃんと来てくれたっぽいし。ちゃんと夜更かししないで寝てるいい子だったからだろうな」
 ほら、枕んとこ。わざとらしいだろうかとは思いながらも、指さしをしながら教えてやれば、〝いい子〟は眠りに就く前にはたしかになかったはずのプレゼントの存在に気づいてくれる。
「あまね、これ」
「約束したじゃん、来年もサンタさんが来てくれるように一年いい子でいようなって。だからちゃんと見てくれてたんだろうな、サンタさん」
 ほら、俺んとこもあるっぽいし。にっこりと笑いながら、枕の下に置かれたプレゼントを取り出して見せれば、たちまちに花の綻ぶような満面の笑みが広がる。
「そっかぁ……、うん」
「よかったな、ほんと」
 得意げな笑顔で応えてやりながら、クリスマスの朝の特別なひとときをこうしてふたりでおだやかに分かち合う。
 
 
 色違いのルームソックスの中身はハンドクリームと外国製のしゃれたパッケージのチョコレート、忍の方には真鍮で出来たバレッタ、こちらのほうにはシンプルなデザインのネクタイピン。
 〝ちゃんとした〟プレゼントはもちろん別途用意してあるのだけれど、ちょっとしたお遊びがてらのサプライズには我ながら程良いセレクトだとは思う。
 
「今年もわざわざ来てくれたんだね、サンタさん。去年だけかと思ったのになぁ」
「去年ちゃんとお礼の手紙送っといたからな、わざわざお立ち寄りくださりありがとうございましたって。義理堅い人間に弱いんだろうな」
 サンタクロース同士がバッティングしたらどうしよう、だなんてことは勿論考えたけれど、どうやら今年はこちらに役割を譲ってくれたらしい。
「でもちょっとびっくりだよね、去年だけの気まぐれかなって思ったからさぁ。どうなんのかな、来年は。今度は俺から送っといたほうがいい? お礼。菓子折りとかもつけてさ」
 いたずらめいた笑顔とともに手渡される言葉に、すっかり肌に馴染んだくしゃくしゃのタオルケットみたいなやわらかな心地よさがふわりと広がる。
「考えなくていいよ、おまえは。そういうのは俺って決まってんだよ」
 おまえはとびっきりの〝いい子〟なんだから。きっぱりと答えて見せながら、寝ぐせのついた髪をくしゃくしゃに掻きまわす。
「……よかった、うれしいな」
 満足げに笑ってみせる笑顔の無防備な幼さはまるで、出会うことなど叶うはずもないずっと昔からきっと変わらないもので――ひどく安心しきったそんな顔をこんなにも近くで見せてくれることが、こんなにもうれしい。
 
 メリークリスマス、今年もたくさんの幸せを分け与えてくれてありがとう。願わくば来年も再来年もその先も、こんなふうにおだやかな気持ちを分かち合える時間が続きますように。
 火照った指と指とを絡め合いながら、優しい誓いをふたりきりでそっと交し合う。






この日の一年後のクリスマスの出来事です。



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