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調弦、午前三時

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I wish,you are

いつかのふたりのクリスマスの朝の光景(あましの)




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 いつものように目を覚ませば、枕元に見慣れない包みがふたつ、行儀良く並べて置かれているのに気づく。
 雪をかぶったツリーの描かれた袋の口には金色のサテンのリボン、ご丁寧に『Merry Christmas』の金色のロゴの入った丸いカードまで下げられている。
 ……あれだよな、子どもの頃以来すっかりご無沙汰の。いや、もちろん『ほんとうの』サンタの正体はとっくに知っているし、そもそもあれは子どもだけの特権のはずなのだけれど。
 ぱちぱち、と重い瞼をしばたかせながら安心しきったようすで眠りにつく姿を見つめていれば、かすかなみじろぎとともに淡く色づいた花びらみたいな瞼がゆっくりと震え、大切な相手の目覚めを教えてくれる。
「おはよ、あまね。メリークリスマス」
「ああ、おはよ。メリークリスマス」
 くぐもったやわらかな声には、いつもに増しての無防備なあやふやさがにじむ。いつもそうするように、くしゃくしゃになった髪をゆっくりと掬う様にしてなぞりあげながらかすれた声で答えれば、猫みたいに瞼を細めた笑顔がじいっとこちらを捕えてくれる。
「なぁ、――」
 尋ねようとしたタイミングを見計らうかのように、きらきらと嬉しそうに瞳を輝かせながらの言葉が覆い被さる。
「ねえ、どしたのそれ。クリスマスプレゼント?」
……付き合ったほうが楽しいもんな、こういうのは。ゆっくりと深く息をのんだのち、穏やかに微笑みかけるようにしながら周は答える。
「なんかさ、朝起きたら置いてあって。クリスマスだもんな。サンタさんがついでに来てくれたっぽい」
「えー、すごいじゃん。いい子にしてたからかなぁ」
「いい加減いい大人なのにな」
「そうゆうサンタもいるんだよ」
「いてもいいのかも」
「いるんだよきっと、ぜったい」
 嬉しそうに笑いかけながら、寝癖のついたままのくしゃくしゃの頭をそうっと掻き回されれば、ほろほろと音も立てずにいくつもの想いが溢れ落ちていく。
「なにくれたんだろな、サンタさんは。誤配送じゃなきゃいいんだけど」
「周まだ見てないの? 一緒に開ける?」
「うん」
 返事の代わりのように犬みたいにパジャマ越しの胸元に鼻を擦り寄せてくるのを宥めるように、布地越しに行儀良く整列した背骨をなぞりあげ、浅く息を吐く。


 Merry Christmas dear Amane/Shinobu
 ご丁寧に宛先を書いたメッセージカードまで添えられた包みのリボンをそろり、とほどいた包みの中から出てきたのはそれぞれに柄の違う上等そうなウールの靴下に、小さな箱入りのチョコレートだった。
 ――なるほど、これなら昨晩お互いに交換しあったプレゼントほどの重みはないし、枕元に置いておく『サプライズ』にはちょうどいい頃合いかもしれない。関心したようすでしげしげと眺めていれば、向かい側からは得意げな笑顔が広がる。
「すごいねえ。サンタさんほんとに来てくれたよ、何年ぶりかなぁ」
「間違いじゃなくてよかったな、子ども向けのおもちゃでも入ってたら大問題だったろ」
 近くに同じ名前の幼いきょうだいがいて――だなんて可能性だってなきにしもあらず、なので。
「もらっちゃうわけにもいかないしねえ。よかったね、お礼のお手紙書こっかなぁ」
 にこにこと嬉しそうに笑う表情にはうっすらとだけれど、きっと会えるはずもない何十年もむかしの『その日』の姿がやわらかに滲んで浮かぶ。
「よかったな、ほんとに」
「うん」
「腹減った? 着替えたらメシにしような、なんか食べたいもんある?」
「サンドイッチ」
 まっすぐにこちらを見つめながら届けられる迷いのない言葉に、心ごと温められる。
「じゃあホットサンドにしよっか。きのうの残りのチキン入れたらいいじゃん」
「ぜったいおいしいやつじゃん、ありがと」
 瞼を細めた優しい笑顔を前に、精一杯の笑顔で応えてみせる。
 ――ほんとうに、どれだけたくさんのものを受け取らせてもらえば気が済むんだろう。
「忍、」
「ん、どしたの?」
 あたたかなまなざしに魅入られるような心地になりながら、そっとやわらかに言葉を吐き出す。
「ありがとな、ほんとうに」
 どれだけ、何度言ったって足りるはずないけれど、それなら何度だってきりなく伝えればいい。言葉にはきっと期限なんてものはないはずだから。
「……うん、」
 頷きあいながら、ゆっくりと掌を重ね合う。



 メリークリスマス、目の前にいてくれる誰よりも大切な相手へ。そして、世界中の人々へ。
 柄にもないだなんて言われたっていい、せめてきょうくらいは。だって、こんなにも特別な朝なんだから。
 世界中の人たちがどうか、優しいクリスマスの朝を迎えられますように。
(そして世界中すべてのサンタクロースへ。お疲れさま、そしてありがとう。)





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