忍者ブログ

調弦、午前三時

小説と各種お知らせなど。スパム対策のためコメント欄は閉じております。なにかありましたら拍手から。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

グッドモーニングブルー

寝苦しい日々が続きますね、というおはなし。
(あましの)




拍手



 生温い水の底に沈められたような――むっとする息苦しさに思わずぱちりと目を覚ませば、真っ先にまぶたを突き刺すのは、カーテンの隙間から容赦なく差し込む朝の光だ。

 重いまぶたを擦りながら、ケーブルに繋いだままのスマートフォンで現在時刻を確認する。
 午前五時――健康的な生活、には良いのかもしれないけれど、まだちょっと早すぎる。いかんせん昨晩のお楽しみの疲れも残っているはずだし、まぁ。
 手探りでまんまと探り当てたリモコンを手に温度を下げれば、途端にぬるくなった室温をかき混ぜるような冷風が肌の上をくすぐる。
 やれやれ、これで一安心――と、胸を撫で下ろすこちらを見計らうかのように、隣のベッドの小山はもぞりと無造作に動き出す。
「……しのぶ」
 タオルケットの山脈の中からひょっこりと現れたくしゃくしゃの寝癖頭の無防備なまなざしは、じいっと穏やかにこちらを捉えてくれる。
「ごめん、ねぼうした?」
 すまなそうに答えてみせる姿に、愛おしさとしか言えない想いはみるみるうちに募る。
 ぶん、と勢いよくかぶりを振り、くしゃくしゃにたわんだタオルケットをかけ直しながら忍は答える。
「起こしちゃってごめんね、まだ眠かったよね」
 ぱちぱち、と重いまばたきを繰り返すさまをじいっと見つめながら、ささやくように静かに答える。
「なんかさ、暑くて起きちゃったみたい。やんなるよね」
 周は寒くない? 平気? くしゃくしゃの髪をなぞりながら尋ねれば、いつもどおりのぎこちない会釈が返される。
 ああもう、こんな時も抜かりなくかわいいな。
「ごめんね、眠かったのに。もうちょっと寝よ? 朝ごはん俺がつくるね」
「いいよ、ありがと」
 ぶん、と勢いよくかぶりを振って答えるそぶりは、強情を張ってみせる子どもにもすこしだけ似ている。
 そうそう、こんな顔もするんだよな。
 いつもよそ行きの強張ったふうにばかり見えて、笑ってくれている時だってどこかしらぎこちなく見えたあの頃には思いもしなかったのに。
 気づかれないようにぬるいため息を洩らしながら、くしゃくしゃのシーツとタオルケットの海に潜り込む。
 ふたりぶんの体温であたためられた見知ったその感触に、何よりもの安堵が溢れ出していくのにただ身を任せる。
「あつくなんだろな、きょうも」
「こまっちゃうよねほんと、気を付けないと」
 他愛もない言葉を交わし合いながら、そよぐ睫毛が落とす影にぼうっと見惚れる。
「寒くなったらごめんね、したら使っていいからね」
「……つかうって?」
「そりゃあねえ」
 もぞりと、シーツの中で足を絡ませるようにしながらそっと髪をかきあげれば、露わになった形の良い耳はいまさらみたいにぼんやりと赤く染まっている。
「……忍、」
 咎めるような口ぶりと気持ちの奥に眠るものはきっと裏腹で、それが筒抜けなことだってもうとうの昔に、お互いに知り尽くしている。
「いいから寝よ? おやすみ」
 ぱちぱち、とゆっくりのまばたきを溢しながら、促すようにパジャマ越しの背中をそうっとなぞる。
 運が良ければこの続きは夢の中で叶う――のかもしれないし。
 きっと目覚めるころには忘れてしまう、ささやかすぎる時間。
 それでもなによりもあらがえないいとおしさとかけがえのない宝物が、こんなひとときにこそ宿っているのを知っているから。
 ひとまずは、おやすみなさい。
 この夢(のようにいとおしい時間)の続きはまたあとほんのすこしだけ先の未来で。


PR

Copyright © 調弦、午前三時 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]