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調弦、午前三時

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2018年の好きな本

こちらの記事は【創作TALK 2018−19】に参加させていただいております。




前回は今年を振り返ったので今年読んで好きだった本の話をしたいと思います。

※同人誌はないです。
※順不同

つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
「つむじ風食堂の夜」吉田 篤弘(ちくま文庫)

架空の町、月船町の十字路の角にある「つむじ風食堂」に集う人たちの物語。
どこかしら異国情緒が感じられるノスタルジックで穏やかな描写は大人のためのやさしいおとぎ話のよう。夜をこんなにやさしく描けるんだな、と読んでいてとても心地よかった。
僭越ながら、こんな物語が書けたらいいなあと思いました。


目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」 伊藤 亜紗 (光文社新書)


大多数の「見える人」たちを前提とした世界の中で「見えない人」はどんな風に生きているのか。
視覚障害者へのインタビューを通して、自分とは違う身体的特徴を持った他者がどんな風に世界を捉え、どうやって生きているのか、『想像力を働かせ、他者を知る』ことをやわらかくて優しい手触りと温度のある言葉で降りていく語りかけがとても素敵。
「わかり合えなくとも寄り添い合うことは出来る」という優しさと、世界を捉えるまなざしを持ち、他者と生きていくことへの問いかけがやわらかく響く一冊でした。


こといづ
「こといづ」 高木正勝(木落社)


近年は細田守映画の劇伴でもおなじみの音楽家のエッセイ。
自身の生い立ち・ルーツを振り返りからはじまり、丹波篠山の小さな村へと暮らしの場を移してからの六年間の日々の記録。
森や水、光、木々のざわめき、それら世界を彩るものたちが語りかけてくるようなやわらかくて優しく透き通った響き。
ただありのまま生きているということをこんなにも慈しむように描ける言葉があるのだ、といううことに驚きと喜びを感じるとても幸福な読書体験でした。

元記事が消えてしまっているのですが、以前読んだインタビューでのお言葉を思い出したので引用させていただきます。

スティーヴン・キングの小説で『シャイニング』ってあるじゃないですか?自分のなかの〈シャイニング(かがやき)〉を見つめるっていう。そういう〈かがやき〉を別の言葉で置き換えると〈魂〉だと思うんです。

「かがやき」がいくつも閉じ込められた、慈しみに溢れた一冊。


ほかにもざっくりと
魚の泪 (中公文庫)
魚の泪 (中公文庫)

古本市で手に取ったのですが、裏表紙のあらすじと書き出しに一気に惹かれました。
アラスカに移住する事になった著者が厳しい自然環境に置かれる異国の地で妻として、母として、一人の作家としての暮らしぶりの中で感じるさまざまな事象を描くエッセイ。
作家であり、一人の女性である彼女の生き方の芯の通った強さのようなものが印象に残りました。
架空の恋人「X」へと宛てた手紙の形式を乗っ取った形で心情を掘り下げていく文体が印象的。

ユルスナールの靴 (河出文庫)ユルスナールの靴 (河出文庫)

須賀さんと女性の友人たちとのエピソードに百合みを感じてときめいたとかそんな。(笑)
ふたりの作家。深い愛情と敬意を持って作家の足跡をたどる旅は、著者自身の人生をたどる旅と穏やかに重なり合う。
書き出しがあまりに素敵でそこから一気に引き込まれしまった。

さきちゃんたちの夜 (新潮文庫)
さきちゃんたちの夜 (新潮文庫)

吉本ばななはずっと読んでいて、今年は「海のふた」も読んだのですがこっちのほうがよりすきかな。傷ついた人たちがありのままを受け入れ、穏やかに優しく生きようとしていく姿に安堵感を得ました。
短いエピソードがふわり、と降りてくるところがとてもよい。

すみれ荘ファミリア (富士見L文庫)
すみれ荘ファミリア (富士見L文庫)

昔ながらの下宿、すみれ荘にひょんなトラブルから突如入居してきたどうにも怪しげな作家・芥。彼の介入により、一見穏やかに見える住人たちの裏の顔が次第に明らかになり。
人間の悪意や本性が暴かれ、終盤のたたみかけるような展開にはハラハラされました。エグみはあれど読後にいやな気分にならないのは人間への信頼と愛情を感じられるからでしょうか。
「家族」の絆が結び直されていく結末には安堵しました。
ある種のテンプレありきのハッピーエンドというBLジャンルの枷が外れるとこういったお話を書かれるのかー、という点でも興味深かったです。
しかし凪良さんは恐ろしく小説がうまいな。(おまえはプロになにを言っている。笑)
年1くらいでいいから今後も一般レーベルで書いてくださるとうれしい。

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)
ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

タイトルでどうなるのかわかってるんだけどやっぱり悲しい、しくしく。
ここではないどこか、を思わせる異国情緒漂う舞台背景が好きです。静謐でもの悲しくてしんしん、と降り積もるように過ぎていく日々の描写のひそやかさが好きです。
薬指の標本もよかったですね。

珈琲とエクレアと詩人 スケッチ・北村太郎
珈琲とエクレアと詩人 スケッチ・北村太郎

鎌倉の海辺の家で、北村さんの隣人として寄り添うように穏やかに日々を過ごした著者がスケッチのようにやわらかく隣人の姿を描くエッセイ。
人はこんなにも慈しみをこめたやわらかなまなざしで隣人を見つめることが出来るのか、という無償の愛のようなものに満ちていて、すこし切なくて優しくていとおしくなります。
この本に切り取られた時間の中にいたくなる一冊。





わたしは本を買うのが好き、と言ったほうがいいのでないかという勢いで、本が好きなのにあんまり読んでる余裕がなくて悲しい日々でもありました。
ツイッターをやめればもっと本が読める気がするんですが、ツイッターやってると面白そうな本や刺激がある情報が得られるのもまた事実なんですよね。

好きなジャンル・得意な分野・好みの偏りはすごくありますが、世界をやさしくたおやかに切り取る、光に満ちたまなざしが溢れた本が好きなんだろうなと思います。
知的好奇心を刺激してくれるものが好き、ということに尽きるのですが、根底に優しさや光が満ちたものが好きなのは本でも音楽でも同じなのかもしれない。

なるほど、そんな人間だからおやすみアンソロが出来たんだな!(自分の中で答え合わせにつながった)

「珈琲とエクレアと詩人」は肥後橋のCalo、「目の見えない人は世界をどう見ているのか」は京都のけいぶんしゃで偶然目にとまって手に取った本でした。
もっぱらチェーンの大型書店ばかり行っていますが、セレクトされた本屋さんで、場の空気ごと持ち帰るように選んだところ、どちらも特別な愛おしさ溢れる一冊となったのでそこも含めてすごくうれしかった。
来年も行ってみたことがない色々な本屋さんに行って、心ときめく出会いを探し求めてみたいです。


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